【徹底解説】小田急複々線化30年の軌跡──莫大な投資とまちづくり、その真価とは?

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1. はじめに:「日本一の満員電車」だった小田急線

かつて小田急線は、朝のラッシュ時に「日本一混雑する路線」として悪名高い存在でした。
国土交通省の調査によれば、1990年代の代々木上原~下北沢間では混雑率250%以上
車内では「新聞も読めない」「カバンがつぶれる」といった悲鳴が当たり前でした(※国交省都市鉄道混雑率調査より)。

この深刻な状況を改善するため、小田急電鉄と東京都は1980年代に複々線化計画をスタート。
しかし、そこから完成までには30年以上の歳月と5,000億円超という巨額のコストを要しました。


2. 小田急複々線化とは?(概要)

項目内容
区間代々木上原駅~登戸駅(約10km)
方法連続立体交差化+複々線化+一部地下化
総事業費約5,000億円超
工期実質1985年~2018年(約30年)
完成2018年3月(全面複々線化)

特に下北沢付近では、「大深度地下方式」によるトンネル建設が採用され、地上に線路を残さない形で都市と調和した鉄道整備が進められました。


3. なぜここまで時間がかかったのか?

最大の壁は、下北沢エリアの住民運動と景観保護問題でした。

当初は高架方式での立体交差を計画していましたが、
商業地・住宅密集地である下北沢では、

  • 騒音
  • 日照権侵害
  • 街のイメージ崩壊
    などを懸念する声が噴出。

朝日新聞(2004年3月3日付)は、こう報じています。

「住民の声を受け、東京都と小田急電鉄は高架案を撤回。地下深くを掘削する大深度地下方式を採用し、地上景観と騒音問題に配慮する工事に切り替える方針を示した。」

地下化により住民合意を得ることはできたものの、工期・コストともに大幅増大。
結果として、工事は30年以上にも及ぶ長期戦となりました。


4. 効果:本当に混雑は解消したのか?

答えは「YES」です。

✅ 混雑率の劇的改善

国土交通省の2022年度調査によると、

  • 代々木上原~下北沢間の混雑率は【157%】
  • かつての250%以上から大幅低下

「朝ラッシュピーク時間帯の列車本数が約2割増加し、通勤負担が大きく軽減された。」
(小田急電鉄2018年リリース)

✅ 所要時間の短縮

  • 急行系列車と各駅停車の分離運行により、
    新宿~町田間で最大10分短縮(ラッシュ時比較)

✅ 遅延の減少・定時性向上

  • 各列車が干渉しなくなり、ダイヤ乱れが大幅減少。

✅ 沿線再開発の加速

  • 下北沢などの駅周辺で新たな商業施設・住宅開発が進行。

5. 小田急複々線化にかかった事業費と負担割合

複々線化工事は、鉄道整備に加え、都市改良(踏切除去、騒音対策など)を兼ねた都市計画事業として進められました。

総事業費

  • 5,000億円超(鉄道+都市基盤整備含む)

鉄道施設分単体でも約2,200~2,400億円と推定されています。


負担割合(標準モデル)

負担者負担内容割合
社会資本整備補助金約50%
都道府県・市区町村都市計画事業費約25%
小田急電鉄鉄道施設整備費約25%

つまり、**「国・自治体:小田急 = 3:1」**の負担構造です。

東京都都市整備局資料でも、

「都市鉄道立体交差事業における鉄道事業者負担割合は原則25%。ただし地価、工事難度、事業効果に応じて増減あり。」
と明記されています。

地下掘削によるコスト増もあり、小田急側の最終負担額は当初想定を上回ったと見られます。


6. 再開発事例:下北沢reloadとまちづくり

複々線化による地上線路撤去で誕生したのが、
「下北線路街(しもきたせんろがい)」プロジェクト
です。

その中心施設が
「reload(リロード)」


reloadの特徴

  • 開業:2021年6月
  • コンセプト:「小規模×個性派テナントの集合体」
  • 内容:カフェ、ギャラリー、アパレル、雑貨店など約30店

reloadは、下北沢の持つ文化的イメージを壊さず、
商業施設というよりも「開かれた街区」に近い作りになっています。

「reloadは下北沢らしい多様性を大事にした街づくりを目指す。商業施設でありながら、街に開かれた空間設計が特徴。」
(日本経済新聞 2021年6月10日付)


reload以外にも展開する線路跡地利用

  • シモキタエキウエ(駅高架上施設)
  • 温泉施設「由縁別邸 代田」
  • シモキタ園芸部(コミュニティファーム)
    など、単なる商業施設ではない多彩な施設が続々とオープン。

「reload」は下北線路街の成功例の一つであり、
複々線化によるまちづくりの成果を象徴する存在となっています。


7. まとめ:小田急複々線化は交通と都市再生の融合だった

小田急複々線化は、単なる鉄道の「線増」ではありませんでした。

  • 朝ラッシュの混雑緩和
  • 所要時間の短縮
  • 定時性の向上
  • 沿線再開発による街の魅力向上

交通と都市再生を同時に実現した、大規模プロジェクトだったのです。

莫大なコストと長い年月を要しましたが、
「長期視点で見れば、社会的リターンは十分に大きかった」
というのが最終的な評価と言えるでしょう。

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