1. 導入:蒲蒲線構想の概要
蒲蒲線(東急・京急蒲田連絡線)は、東急多摩川線と京急空港線をつなぐ約1.7kmの新線構想で、羽田空港アクセス強化のため2000年代から検討されてきました。東京都の都市計画にも組み込まれ、東急沿線や埼玉方面から羽田空港までの所要時間短縮を狙うプロジェクトです。しかし、長年議論されながらも事業化には至っていません。その理由を探る上で、アクセス競争の現状と「採算性」がカギとなります。
2. 羽田空港アクセスの現状
現在、羽田空港へのアクセスは京急が約60%以上のシェアを誇り、浜松町経由の東京モノレールが約30%程度を占めています。その他、リムジンバスやタクシーが残りのシェアを担っています。2020年代にはインバウンド需要の回復が進み、空港利用者は再び増加傾向です。一方で、JR東日本も「羽田空港アクセス線」を2030年ごろの開業を目指しており、新たな競争が生まれつつあります。
3. シェアの変化とトレンド
2010年から2023年にかけて、羽田アクセスのシェアは京急のシェア拡大が目立ちます(例:2010年 京急55%、モノレール35% → 2023年 京急63%、モノレール27%)。この背景には、京急の品川駅リニューアルや快特増発などの努力があります。蒲蒲線が実現すれば、東横線・埼玉方面の利用者が直接羽田へアクセスできるようになり、潜在的な新規シェアを生むと予想されています。
4. コストベネフィット分析
■ コスト面
- 建設費用: 約1,400~1,500億円と見積もられており、都心部の地下区間を含むためコスト上振れリスクも高い。
- 維持管理費: 年間数十億円規模が予想されます。
- 資金分担: 東京都、東急、京急の共同負担が前提で、都の公的負担なしでは成り立たない構造です。
■ ベネフィット面
- 所要時間短縮:
- 東横線・多摩川線沿線 → 羽田空港:10~15分短縮
- 埼玉方面 → 羽田空港:最大20分短縮 - 新規需要:
- 1日あたり約2~3万人の利用増が期待されています。 - 経済波及:
- 地域経済の活性化、不動産価値の向上などが見込まれます。
■ 競合とリスク
- JR羽田アクセス線とのターゲット競合が不可避。
- 羽田空港の今後の利用者増加が不透明(インバウンドは復調中だが、国内市場は縮小傾向)。
- 高額投資に見合う黒字化は難しいとの見方が支配的。
■ 概算B/C(費用便益比)
項目 | 概算 |
---|---|
総事業費 | 約1,500億円 |
年間新規利用者数 | 約800万人(仮:2.2万人/日) |
時間短縮価値(1人20分×時給換算) | 年間約60億円規模(利用者増が前提) |
結論 | B/C比は概算で1をやや下回る水準 |
都や専門家の試算では、経済的な効果は一定あるものの、単独黒字化は困難との見解が多く、公共投資の妥当性が問われています。
5. 蒲蒲線は必要か?
利用者目線では、乗り換えが減り所要時間も短縮されるため、埼玉・東急沿線からの羽田アクセスが大きく向上します。東急の路線価値向上も見込まれるでしょう。しかし、
- 既存インフラ(京急・モノレール)の増強余地、
- JRの羽田アクセス線との二重投資懸念、
- 空港利用の成長鈍化リスク
など、事業化への障壁は依然として高いままです。
6. 結論:夢の路線か、割高投資か
蒲蒲線は、地域の利便性向上や多様なアクセス網の実現という意味では意義が大きいです。一方で、コストベネフィットの面では慎重な見極めが必要であり、特にJR新線との重複投資は中長期の財政負担を懸念させます。東京都と事業者の調整力、そして都民の理解が、今後のカギを握るでしょう。
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