内部格付手法は所定の算式に銀行が推計したパラメータを代入することで信用リスクアセットを算出する方法です。標準的手法と比較して高度なリスク管理手法であり、先進的内部格付手法はメガバンクで、基礎的内部格付手法は上位地銀で採用しております。
ここでは、バーゼルⅢの最終化に伴う内部格付手法の主な変更点を紹介していきます。
内部モデルの利用制限(先進的内部格付け手法のみ)
内部モデルの利用制限って何のこと?という感じでだと思うので、簡単に事例を挙げると、結果的に超大企業向け、金融機関向けでリスクアセットが増えます。
超大企業(売上高5億ユーロ=700億円くらい)や金融機関向けについて、現行では銀行で推計していたパラメータを適用してきましたが、新規制では当局設定値を使用することになります。超大企業や金融機関は、近年デフォルトが少なく、過剰に低いパラメータでリスクアセットを算出していたものの、自行推計値が使用できなくなります。
そのため、メガバンクの審査や営業企画では超大企業向けの融資についてより採算性を求めることになることが推測されます。メガバンクが減らした分の融資は、基礎的内部格付手法行である大手地銀が取りに行くことも想定されます。
また、標準的手法と同様に株式でリスクアセットが増えます。政策投資の株式を減らす方針を示したり、ファンド投資でもより採算性を求めることになるでしょう。
リスク・パラメータの下限設定、見直し
これも何のことかという感じですが、例えば内部格付が良い先のリスクアセットが増える可能性があることや不動産担保付きの融資のリスクアセットが減ることが想定されます。
- PDフロアの引き上げ
自行で推計しているPDについて、現行では最低で0.03%(ソブリン除く)としておりましたが、0.05%へ引きあがる。例えば大企業のうち財務状況の良い先について、今までPD0.03%を適用していたものが0.05%となる。
大企業のうち財務状況の良い先について、ほぼゼロ金利で融資していたものもあるだろうが、より採算性を求めることになるだろう。
- 当局LGD値の見直し
繰り返しになりますが、内部格付手法は所定の算式に銀行が推計したパラメータを代入することで信用リスクアセットを算出する方法です。そのパラメータの一つであるLGD値について、無担保LGDは45%→40%へ引き下げ。また不動産担保LGDは35%→20%へ引き下げとなります。
そのため、無担保融資や不動産担保付き融資についてリスクアセットが減少します。
特に不動産担保付き融資については、大きくリスクアセットが減少するため、不動産向けの融資が多い銀行にとっては相当得をする変更ポイントです。
資本フロアの導入(裏側で標準的手法でもリスクアセット計算が必要)
内部格付手法の銀行であっても同時に標準的手法でのリスクアセット算出が必要です。それは、内部格付手法はパラメータが銀行それぞれであるために、同じ法人への融資であっても銀行によってバラツキがあります。そのバラツキが問題となっているため、リスク感応度が低く、銀行間で比較を可能とするために標準的手法での算出が必要になるものです。
なお、内部格付手法のリスクアセットは、経過措置もありますが、最終的には標準的手法の72.5%までしか削減してはいけないことになります。
標準的手法の72.5%を下回った場合は、下回った分をペナルティとして加算することになります。
そのため、内部格付手法におけるリスクアセットのみならず、標準的手法のリスクアセットを意識する必要があります。
スケーリングファクターの廃止
現行の内部格付手法では、リスクウェイトを算出する際の最後にスケーリングファクター(掛け目×1.06)をかけていました。そのため、例えば400%の非上場株式のリスクアセットは、最終的に424%としておりました。
これはバーゼルⅠからバーゼルⅡへ移行する際に、調整値として使用されていたものが現行でも残存しておりましたが、バーゼルⅢの最終化で廃止となります。
そのため、全資産のリスクアセットで何もしなくても0.06%分リスクアセットが減少します。
まとめ
以上が主な内部格付手法におけるバーゼルⅢの最終化の影響です。
リスクアセットが減少する点と増加する点の両方がありますので、変更点を意識した戦略が必要でしょう。
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