銀行で働く中でバーゼル規制というワードを聞いたことがあると思います。新たに事務のルールが追加される場合、融資の基準が厳しくなる背景には、様々な法規制と同じようにバーゼル規制への対応するケースがあります。また、最近では現行のバーゼルⅢが最終化されるといったワードが行内で使用されているのではないでしょうか。
ここではバーゼル規制とは何か簡単に説明していきます。
バーゼル規制とは?
バーゼル規制とは、銀行が維持しなければならない「自己資本比率」や「流動性比率」を定めた国際的に共通する規制のことです。
リスクに備えた自己資本を積み上げ、流動資産を備えることを義務付けることで、金融システムの健全性を維持し、銀行が支払いの能力を失ったり、経営破綻することを未然に防ぐことが目的です。
銀行はさまざまな業務を行っていますが、もっとも重要な業務は与信業務(貸付)です。与信業務には貸付先が貸し倒れることによる損失を負う「信用リスク」があります。
また、有価証券のトレーディングも行っており、トレーディング業務には有価証券の価格変更により損失を負うという「マーケット・リスク」もあります。
さらに、銀行の従業員の事務ミスや不正行為、ITシステムの障害など、オペレーションのミスにより損失を負うという「オペレーショナル・リスク」もあります。
下記の自己資本比率規制の算式は、このようなリスクを上回るだけの自己資本を備えることを銀行に義務付けるものです。
日本銀行バーゼルⅢの最終化資料
バーゼル規制の経緯
- バーゼルⅠ導入
バーゼル規制は、1988年に国際規制として初めて導入されました。1980年代からラテンアメリカ地域の債務問題の深刻化や大手銀行の倒産を受けて、国際的なリスクの波及に対する懸念が高まりました。
そのため米国では自己資本比率規制が強化されましたが、欧州や日本の銀行との国際競争力への影響への懸念から国際的な基準の策定が求められました。最低所要自己資本比率8%というのは、現在でも受け継がれていましすが、国際合意として制定されたものです。
- バーゼルⅡ導入
金融自由化の進展、デリバティブ取引の拡大などによってバーゼルⅠでは対応しきれないという限界に対応するため、2004年に大改編された規制をバーゼルⅡと呼んでいます。
信用リスクの計測手法として、「標準的手法」が細分化されたり、新たに各銀行が有する行内格付けにより設定したリスク・ウェイトを用いる「内部格付手法」が導入されました。
- 2010年以降 バーゼルⅢ導入、バーゼルⅢの最終化
バーゼルⅡの策定後、2008年に金融危機がおこったため、金融危機への本格的な対応が必要となりました。そのため、2010年にバーゼル規制の大改編が行われました。それがバーゼルⅢになります。
バーゼルⅢでは、自己資本比率の分子部分に注目し、損失吸収力の高さに応じて「普通株式等Tier1」、「Tier1」、「Tier2」に分類されました。
また、バーゼルⅢは2010年にいったん合意されましたが、合意後も引き続き検討が行われ、2017年12月に最終合意に至りました。これをバーゼルⅢの最終化といいます。
一部の研究者の論文やレポートでバーゼルⅢの最終化を「バーゼルⅣ」というそうですが、金融庁や日本銀行は「バーゼルⅢの最終化」を使用しております。
自己資本比率の最低水準:国際統一基準と国内基準
自己資本比率規制には、国際統一基準と国内基準があります。
国際統一基準は、国際的に活動する銀行(海外営業拠点を持つ銀行)に適用されます。大雑把にいうと自己資本比率の最低水準は8%です。
また海外営業拠点を有しない銀行には国内基準が適用されます。
なお、国際統一基準は以下の銀行です。
・メガバンク3行、三井住友信託銀行、群馬銀行、千葉銀行、横浜銀行、八十二銀行、静岡銀行、北國銀行、滋賀銀行、広島銀行、山口銀行、伊予銀行、名古屋銀行。
イメージでは、メガバンク等の大手銀行と上位の規模を持つ地方銀行が国際統一基準行になります。第二地方銀行では名古屋銀行のみが国際統一基準行です。大手銀行でもりそな銀行や新生銀行、あおぞら銀行、地銀最上位レベルの規模を持つ福岡銀行も国内基準行というのは、銀行関係者としては驚きだと思います。
なお、子会社の銀行に国際統一基準行があれば、ホールディングスやフィナンシャルグループは国際統一基準行になるでしょう。
ご自身が働く銀行の最低水準を確認してみてください。
最低水準を下回るとどうなるの
自己資本比率の最低水準を下回った場合、経営健全化計画の提出や配当の制限、一部営業所の廃止、業務の縮小、株式の処分等が段階的に求められるほか、銀行業の廃止や業務の停止が求められるため、銀行経営を継続するためには最低水準を下回ることはあってはならないことです。
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