JR東海、リニアの影に東海道新幹線の快走──2026年3月期1Q決算を読む

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「リニアは止まったまま」。だが、「東海道新幹線は止まらない」──。そんな印象を強く与えるのが、JR東海の2026年3月期第1四半期決算だ。

営業収益は4,782億円(前年同期比+9.9%)、営業利益は**2,212億円(同+20.0%)**と絶好調の滑り出しを見せた。その立役者は言うまでもなく、東海道新幹線である。


東海道新幹線、“三重奏”の追い風で増収11%

同新幹線の運輸収入は前年同期比+11%増の3,831億円。この伸びの要因は以下の3つに分解されている:

  • インバウンド(訪日外国人)効果:+5%
  • 大阪・関西万博効果:+4%
  • その他(ビジネス回復等):+2%

観光・インバウンドとビジネスの両面で需要が戻りつつあり、2018年度比で105%まで回復しているのは注目に値する。特に、万博による収益効果は1Qだけで約140億円に達しており、通期では200億円超の寄与が見込まれる。


インバウンド:1Qだけで450億円

インバウンド収入の推計値は1Qで約450億円。これは前年同期比で約1.5倍以上と見られ、訪日客の旺盛な旅行需要が東海道新幹線の利用に直結している。

特に注目すべきは、インバウンドに対応した高価格帯グリーン車の利用促進や、「エクスプレス予約」制度の価格改定、外資系ホテルとの提携強化など、富裕層インバウンド戦略が形になりつつある点だ。


利益は急増、設備投資も積極化

営業利益は前年同期比+20%の2,212億円、純利益は**+21%の1,462億円**と絶好調。流通(駅ナカ商業)、不動産(沿線ホテルなど)部門も堅調で、グループ全体として盤石な利益体制を築きつつある。

新幹線車両「N700S」や在来線特急「HC85系」の追加投入も進められており、旺盛な需要に合わせた供給体制の強化が着々と進んでいる


リニアは、やはり重い──静岡工区の対話は進展も…

一方で、中央新幹線(リニア)計画は依然として足踏み状態だ。静岡工区における水資源・環境問題については「水資源に関する対話は完了」とされているものの、依然として本格着工には至っていない。

「静岡県との対話は丁寧に続けていく」との姿勢を強調するものの、開業時期に関する具体的な言及はゼロ。同プロジェクトが重荷となり、株主や投資家からの懸念が拭えないのも事実だ。


沿線ホテル開発:鉄道とのシナジー創出なるか

ホテル事業では、奈良や高山、京都など観光地での外資系ホテル開業を進めており、鉄道との相乗効果を狙った動きが目立つ。

ただし、足元のホテル稼働率はやや低調で、6月実績では**稼働率74.1%(前年同期比-2.1pt)**と減少傾向。高単価路線の中で、価格とサービスのバランスが問われる局面にあることは意識したい。


まとめ:進む“東海道の深化”、進まぬ“リニアの未来”

今回の決算を総括すると、以下のような構図が浮かび上がる:

  • 東海道新幹線は過去最高水準の絶好調
  • インバウンド+万博という外的好条件が追い風に
  • 設備・サービス投資も積極的に拡大中
  • ⚠️ リニア問題は依然として“進展のなさ”が最大の懸念材料

JR東海の業績は、まさに**“進むべきところは進み、止まるところは止まっている”**状態である。問題は、この「止まっている部分(リニア)」にどれだけ時間とコストを割き続けるかという、経営の根本的な選択であろう。

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