導入
コロナ禍で打撃を受けた西武ホールディングス(HD)は、不動産やホテルを次々と売却し財務を立て直してきた。しかし今、その矛先がブランド価値の高い「品川プリンス」にまで及ぼうとしている。資産売却は即効性のある手段だが、将来の収益基盤を削り取る“資産の切り売り商法”の様相を呈し始めている。
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■ 過去最高益のカラクリ
2024年3月期、西武HDは純利益925億円と過去最高を記録した。一見すると絶好調に見えるが、その中身は資産売却益に大きく依存。米投資ファンドへのホテル売却など、固定資産の切り売りが利益を押し上げたに過ぎない。
■ 「品川プリンス」まで売却対象
2025年2月には、旧プリンスホテルの看板的存在「品川プリンス」を含む物件の売却計画を発表。東京ガーデンテラス紀尾井町や首都圏沿線の有力ホテル・遊休地まで視野に入れ、売却リストは拡大中だ。
■ 投資ファンド頼みの構図
売却先は多くが外資系投資ファンド。短期的な利回りを重視する彼らにとって、資産価値の最大化は既定路線だが、地域や沿線価値の維持とは必ずしも一致しない。売った瞬間に現金は入るが、沿線の魅力や鉄道・観光事業の将来性は徐々に痩せ細る。
■ 「資産の切り売り=タコ足商法」の危うさ
資産売却で得られるのは一度きりの収入だ。長期的には収益の柱を失い、再び資金不足に陥るリスクが高まる。しかも、ブランドホテルや一等地不動産を手放すことは、他社との差別化戦略を自ら放棄するに等しい。
■ 本来の使命は何か
西武HDの本来の強みは、鉄道・ホテル・レジャーを組み合わせた総合的な沿線価値創造にあったはずだ。短期的な株主還元や財務改善だけを優先すれば、その土台が崩れかねない。経営陣は数字上の成果ではなく、10年先を見据えた投資と運営のバランスを取るべきだ。
結び
資産売却は確かに手っ取り早く財務を改善できるが、それは企業の未来を削って得る栄養補給のようなものだ。「品川プリンス」売却の判断は、西武HDが未来よりも目先の利益を選んだ象徴的な出来事である。沿線利用者や株主にとって、そのツケは決して小さくない。
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