長期政権がもたらした統治の緩み――近鉄グループHDとKNTCTの不祥事

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「鉄道会社=堅実・誠実」というイメージが揺らいでいる。近鉄グループホールディングス(HD)とその上場子会社KNT-CTホールディングス(KNTCT)で相次いだ不祥事は、企業統治のあり方、そして長期政権の弊害を露呈する事件だった。


上場子会社KNTCTで相次いだ不正

KNTCTは、旅行大手・近畿日本ツーリストを傘下に持つ近鉄系の上場企業である。2022~2023年にかけて、同社ではコロナ禍での雇用調整助成金等を不正受給していたことが発覚。実際には休業していない社員についても虚偽の申請を行い、数億円規模の補助金を不正に受け取っていた。

さらに2023年には、青森支店が県内の旅行業者との談合に関与していたとして、公正取引委員会から独占禁止法違反に基づく課徴金納付命令を受ける。このように、KNTCTでは二年続けて重大なコンプライアンス違反が発覚した。


人事がひっくり返った「2023年の異変」

2023年には、KNTCTの社長であった米田昭正氏が近鉄グループホールディングスの新社長に就任する予定だった。ところが、不正発覚の影響により、直前でこの人事案は白紙に。結局、近鉄グループHDの社長には都司尚之氏が就任することとなった。

これは近鉄グループにおける「異例の人事」とも言われた。通常であれば、子会社のトップが持株会社の社長に昇格するのは既定路線だったが、グループガバナンスに関わる不祥事によりその流れが覆された形だ。

近鉄GHD、発表済みの社長人事を撤回 コロナ業務の過大請求問題で:朝日新聞


それでも残る小林会長――「実質的な院政体制」

こうした混乱を経てもなお、グループの“影の支配者”は健在だ。小林哲也会長は2024年に代表取締役会長を退いたものの、取締役相談役という形で経営中枢に残留している。これは形式的な引退であり、いわば院政に近い状態だ。

小林氏は2009年に近鉄百貨店の社長に就任後、近鉄グループの要職を歴任し、長年にわたってグループ全体の実権を握ってきた。2021年には持株会社体制の下でグループ再編が進んだが、彼の影響力は依然として強いままだ。


「親子上場」の構造的問題

今回のKNTCTの問題は、上場子会社というガバナンスの難しさをも浮き彫りにしている。KNTCTは東京証券取引所スタンダード市場に上場しているが、筆頭株主は親会社の近鉄グループHD。経営の独立性が疑われる場面も少なくない。

こうした親子上場の構造では、ガバナンス不全が起きやすく、特に親会社が子会社の経営を実質支配する状況では、企業倫理や不祥事の責任の所在が曖昧になりがちだ。


採用担当者による不適切行為も発覚

さらに、2021年には近鉄グループホールディングスの採用担当者が就職活動中の女子大学生に対して不適切な行為を行っていたことが報道された。報道によれば、採用担当者はエントリーシートの添削を口実に女子学生を食事に誘い、その後ラブホテルに連れて行き、肉体関係を持ったという。女子学生は採用に影響が出ることを恐れて断れなかったとされる。近鉄グループHDはこの件について「厳重な処分を行う」と発表したが、具体的な処分内容は明らかにされていない 。

このような行為は、企業の信頼性を著しく損なうものであり、採用活動における倫理観の欠如を示している。


統治刷新は本当に進んでいるのか?

今回の一連の不祥事は、単にKNTCTの問題にとどまらない。近鉄グループ全体において、リスク管理体制の機能不全と、長年の権力集中によるガバナンスの形骸化が進んでいたのではないか。

企業イメージを取り戻すには、「形式的な人事刷新」ではなく、グループ全体での統治構造の見直しと、「相談役制度」の廃止を含む抜本的な改革が必要だろう。


結びに――不祥事は組織の鏡

KNTCTの一連の問題や採用担当者の不適切行為は、現場のミスや不注意ではない。ガバナンスの緩み、経営の私物化、親子上場の構造的欠陥、そして長期政権の弊害といった、グループの深層にある問題が噴出した結果である。

今、近鉄グループには「経営刷新」の本気度が問われている。

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