「“インバウンド偏重”の落とし穴 ― 西鉄ワンビルに見る再開発の行方」

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1. 若者文化の聖地だった「天神コア」

1976年に開業した「天神コア」は、福岡の若者ファッション文化をリードする存在だった。地元の10〜20代が通い詰め、音楽、ファッション、ライフスタイルの拠点となっていた。
しかし、2020年3月に閉館。西鉄はその跡地に、「天神ビッグバン」の目玉となる再開発ビル「ONE FUKUOKA BUILDING(ワンビル)」を建設している。


2. ワンビルの概要 ― 巨大再開発ビル

  • 名称:ONE FUKUOKA BUILDING(ワンビル)
  • 開業予定:2025年4月24日
  • 規模:地上19階・地下2階建、延床面積約55,000㎡
  • 入居テナント数:130店舗以上(商業・ホテル・オフィス)

西鉄は「九州初出店」「県内唯一」などのテナント誘致に力を入れ、約6割以上がその条件に該当するとしている。


3. 高級ブランドが並ぶ“顔ぶれ”

ワンビルの低層階(1〜3階)を中心に、インバウンド富裕層向けの高級ブランドが目立つ:

ブランド名特徴出店形態
CHANEL(シャネル)国内最大級、1,160㎡旗艦店(1〜3F)
Valextra(ヴァレクストラ)伊ラグジュアリーレザーポップアップ→常設予定
Maison Kitsuné九州初、カフェ併設ライフスタイル系
MYKITAベルリン発、眼鏡旗艦店

このような構成は、「アジア富裕層」「訪日観光客」を主要ターゲットとした空間設計であり、かつての若者向け施設とは方向性が大きく異なる。


4. インバウンド偏重のリスク ― コロナと観光過剰の教訓

福岡・九州の観光動向と問題点

  • 福岡市の外国人宿泊者数:2019年は約204万人 → 2020年は約13万人(▲93%)
  • 福岡空港国際線旅客数:2019年約868万人 → 2021年はほぼゼロ
  • 太宰府天満宮・糸島などでは、観光渋滞や地域住民との軋轢が問題化

このように、コロナ禍はインバウンドへの依存が持つ脆弱性を露呈させた。短期的な観光ブームは、外的要因によって容易に崩れる。

西鉄ワンビルのような大規模開発が、こうした教訓を踏まえず「インバウンド特化」で突き進むことには、中長期的な経営・社会リスクがつきまとう。


5. 地元が遠のく再開発

福岡の人々が慣れ親しんだ「天神コアの空気」は、ワンビルでは感じられない。
家賃水準も高額になることが予想され、地場アパレルや雑貨ブランドが出店できる余地は限られている。地元の高校生や大学生にとって「自分たちの場所」と感じられる要素は乏しい。
つまりこれは、“天神の顔”が地元目線から観光目線へすげ替えられていく過程に他ならない。


6. 誰のための「ビッグバン」か

天神ビッグバンは都市再生の象徴として進められているが、その恩恵を誰が受けるのかは再検討が必要だ。

  • 地元住民?
  • 観光客?
  • テナント資本?
  • デベロッパー(=西鉄)?

とりわけ西鉄は、鉄道・バスといった地域インフラを担う「地元の足」であるべき企業だ。観光消費への偏りが、交通事業や地域連携の機能を圧迫していないか、検証の視点が必要だろう。


7. おわりに ― “天神らしさ”を取り戻すには

再開発を否定するわけではない。だが、経済効率だけでは育てられない“都市の温度”がある
西鉄は地域の公共的役割を担う企業として、「福岡らしさ」「天神らしさ」を反映した商業空間を模索すべき時期に来ている。

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