日本のドラッグストア業界:現状と今後の展望

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日本国内のドラッグストア業界は近年、大規模な再編や業態の進化を経て、大きく姿を変えつつあります。本記事では、業界再編の進展取扱商品の拡大の歴史的経緯収益モデルの構造主要企業の最新動向、そして今後の業界見通しについて、最新データを交えながら詳しく解説します。

業界再編の進展:M&Aと寡占化の流れ

近年、ドラッグストア業界では合併買収(M&A)や企業統合による再編が加速し、上位企業への集中が進んでいます。特に2000年代中頃以降、店舗数の急増による競争激化を背景に業界再編の動きが活発化しました​。2004年にはドラッグストア企業数が671社とピークに達しましたが、その後は大手による地方チェーンの買収が相次ぎ、企業数は減少に転じました。例えば、マツモトキヨシ(現マツキヨココカラHD)は2000年代に長野の「健康家族」や埼玉の「トウブドラッグ」などを次々と傘下に収め​、ツルハHDやウエルシアHDも同様に積極的なM&A戦略を展開してきました​。

その結果、業界の勢力図は様変わりし、上位10社で市場シェアの約70%を占める寡占的な構造となっています​。2019年度の売上高ランキングでは業界1位がツルハHD、2位がウエルシアHD、3位がコスモス薬品という状況で、かつてトップだったマツモトキヨシは5位まで後退していました。しかし2021年10月、業界5位のマツモトキヨシHDと7位のココカラファインが経営統合を果たし、売上高1兆円・約3000店舗規模の巨大グループが誕生​。この統合によってドラッグストア業界の勢力図に大きな変化が生じ、シェア争いに一つの決着がついたとされています​。

さらに2025年には、業界再編を決定づける動きが発表されました。流通大手のイオン株式会社は、子会社のウエルシアHDと約20%出資するツルハHDを2025年12月に経営統合する方針を表明しました​。当初2027年末を目標としていた統合計画を2年前倒ししたもので、これが実現すれば業界トップ2社の合体という前例のない再編となります。統合後のグループの年間売上高は合計で約2兆円規模(2022年度実績ベース)に達するとみられ、業界地図はさらに塗り替えられるでしょう。このように、ドラッグストア業界では中小チェーンの大手傘下入りから、大手同士の統合へと再編のステージが移りつつあります。

業界再編の主なトピックを時系列でまとめると以下の通りです。

  • 1990年代後半~2000年代初頭: 新規参入が活発化し企業数が増加(2004年度に671社)​。その後競争激化により業界再編が始まる。
  • 2000年代中盤: 大手が地域チェーンを次々買収。例:マツモトキヨシが地方ドラッグをM&A、ツルハHD・ウエルシアHDも積極的買収。企業数は2004年を境に減少。
  • 2010年代: 業界上位による寡占化が進行。2019年度売上高トップはツルハHD、次いでウエルシアHD・コスモス薬品。トップ10社で市場の7割を占有。
  • 2021年: マツモトキヨシHDとココカラファインが経営統合(マツキヨココカラ&カンパニー発足)。売上高1兆円超の業界最大手グループが誕生。
  • 2025年(予定): イオンがウエルシアHDとツルハHDの経営統合を発表。実現すれば業界トップクラス同士の統合で約2兆円規模のグループが誕生し、寡占化が一層進展。

このように、ドラッグストア業界は合従連衡を繰り返しながら**「近い将来に大手3社程度に集約される可能性**」すら指摘されています。実際、銀行業界やコンビニ業界が最終的に3大グループに収れんした例にならい、ドラッグストアでもさらなる再編で**“メガドラッグストア”グループ**が台頭する可能性が高まっているといえるでしょう。

業態進化の歴史:医薬品から日用品・生鮮食品まで

ドラッグストア(DgS)業態の成立と発展の歴史にも触れておきます。ドラッグストアとは本来、一般用医薬品をはじめ健康・美容関連商品から、生鮮食料品以外の食品や日用品まで幅広く扱う小売店を指します​。従来の「薬局(薬店)」が医薬品だけを販売したり調剤に特化したりするのとは異なり、多彩な商品を揃えるのが特徴です。

そのルーツは米国にあり、19世紀に営業時間延長や品揃え拡充を進めた薬局が日用品まで扱う現在のドラッグストアのスタイルへ進化したとされます。日本へのドラッグストア概念の導入はやや遅れ、1970年代にようやく登場しました。1976年に横浜市で開業したハックイシダ(後のハックドラッグ)杉田店が日本初のドラッグストアといわれています​。当時は薬局経営者が共同仕入れ組織(オールジャパンドラッグなど)を作るなど、小売チェーン化の黎明期でした。

1990年代に入ると、ドラッグストアは**「薬も生活用品も一度に買える便利さ」で消費者、とりわけ女性から高い支持を獲得し、一大ブームとなりました​。この頃から医薬品だけでなく食品・日用品・化粧品**などを幅広く揃える現在の業態が確立していきます。その結果、新規出店が相次ぎ企業数も急増しましたが(前述の通り2000年代前半にピーク)​、店舗乱立による薬剤師不足問題なども表面化しました​。

2000年代後半以降、競争激化の中で各社はさらなる差別化を図るべく取扱商品の幅を拡大しています。ドラッグストアが元来強みとするヘルスケア・ビューティ用品に加え、食品の取り扱い強化が顕著になったのもこの時期です。特に生鮮食品(野菜や生鮮品)まで扱う店舗も登場し始めました。郊外型の大型店を中心に、生鮮食品を含む食料品を充実させた「フード&ドラッグ」型店舗への進化です。例えば北陸発のクスリのアオキなどは食品に強みを持つドラッグストアとして知られ、早くから生鮮野菜の販売を手掛けてきました。また、九州地盤のコスモス薬品もディスカウントストア並みに食品を豊富に取り揃える戦略で成長しています。

こうした食品強化の背景には、「薬や化粧品だけでは来店頻度が低い」という課題があります。日々消費する食料品や消耗品を揃えることで顧客の来店頻度を高め、ついでに利益率の高い医薬品や美容商品を購入してもらう狙いです。ドラッグストア各社は新聞折込チラシなどに日用品の特売品を打ち出して客を引き寄せ、粗利(マージン)の高い薬やコスメを一緒に買わせるビジネスモデルを得意としてきました​。

その結果、ドラッグストアの売上に占める食品の割合は大きく増加しています。2020年にはドラッグストア全体で食品売上が約2兆1,834億円に達し、これは全体売上の約3割に相当しました​。もはやドラッグストアは「食料品店」としての顔も持つまでに業態が進化したのです。実際、2020年時点で医薬品(調剤医薬品+OTC)の売上構成比は約20%に過ぎず、残り約50%はヘルスケア用品・健康食品・化粧品・日用品などが占めています​。こうした構成比からも、現代のドラッグストアがいかに総合的な生活必需品ストアになっているかが分かります。

一方で、調剤薬局業務の併設も業態進化の重要なポイントです。2000年代以降、規制緩和の流れなどを受けてドラッグストア店内に処方せん調剤薬局を併設するケースが増えました。調剤併設により地域の「かかりつけ薬局」として医療提供体制に組み込まれる狙いがありますが、これには有資格者である薬剤師の確保が不可欠です。店舗数の増加に薬剤師の供給が追いつかず、薬剤師不足が深刻化したのもこの頃です​。ドラッグストア各社にとって調剤併設は収益機会である反面、人材面の課題も突きつけることになりました。

このように、日本のドラッグストア業態は1970年代の黎明期から90年代のブーム、そして**2000年代以降の総合化(食品・調剤の拡大)**という段階的な進化を遂げています。その結果、ドラッグストアは今や百貨店をもしのぐ市場規模を持つまでになりました。実際、2019年のドラッグストア販売額(約6兆8,356億円)は、同年の百貨店売上(約6兆2,978億円)を上回ったというデータもあります​。業態の成長力の大きさを示す象徴的なエピソードと言えるでしょう。

収益モデルの構造:PB商品・食品・調剤併設など

ドラッグストアの収益モデルは、その業態進化と歩調を合わせて変化・多様化しています。基本となるビジネスモデルは前述の通り、「集客商品」と「高粗利商品」の組み合わせです。日用品や食品といった薄利多売の商品で集客し、利益率の高い医薬品・化粧品で稼ぐ構造は現在も業界の典型といえます​。例えばトイレットペーパーや洗剤、飲料・菓子類などは競合店に負けない低価格で提供しつつ、来店客には処方薬や市販薬、美容サプリメントなども併せ買いしてもらうことでトータルの利益を確保します。

売上構成比を見ると、食品部門が約30%調剤医薬品+OTC医薬品が約20%、そしてその他日用品・衛生用品・化粧品などが約50%というバランスになっています。食品の比率が高まったことで一店舗あたりの平均粗利率は相対的に下がる傾向にありますが、その分客数増加と客単価アップで補う戦略です。実際、ドラッグストア業界全体では1店舗あたり年商約3億9,000万円(2020年度時点)と6年連続で過去最高を更新するなど、店舗あたり売上も堅調に推移しています。これは店舗の大型化や食品売上の増加で客単価が伸びているためと分析されています。

各社はプライベートブランド(PB)商品の開発にも力を入れ、収益性向上を図っています。大規模チェーンほどPB開発に積極的で、自社ブランドの日用品・食品・健康美容商品を次々と投入しています。PB商品は中間マージンを省けるため粗利率が高く、売上全体の利益率改善に寄与します。その強みを背景に、規模メリットを享受する大手企業が市場を席巻している状況があります。先述のとおり業界トップ10社でシェア約70%ですが、巨大チェーンは仕入交渉力で有利な条件を引き出しつつPBで利益率も確保できるため、ますます規模拡大に拍車がかかるという構図です​。

また、調剤併設店舗の増加も収益モデル上の大きな変化です。調剤薬局部門の売上は安定的で、一度かかりつけ患者を獲得すれば定期的な処方箋による来店が見込めます。各社とも調剤部門の拡充に努めており、例えばウエルシアHDでは「ドラッグ&調剤」の積極展開により全店の7割超に調剤併設との報道もあります(※ウエルシアHDの発表資料より)。調剤部門の利益率そのものは薬価制度の影響でそれほど高くありませんが、調剤をきっかけに来店した患者が日用品やOTC薬を買う相乗効果もあり、来店動機の多様化という点で大きなメリットがあります。

ただし、調剤強化に伴う課題として前述の薬剤師不足が依然深刻です。薬剤師はドラッグストア以外にも病院・製薬企業など多くの業界で求められており、6年制移行による供給制約も相まって慢性的な人材難となっています。薬剤師が確保できなければ調剤併設店の出店は計画通りに進められないため、人材確保策も収益モデル上の重要戦略となっています。

コロナ禍も収益モデルに一時的な影響を与えました。2020年はマスク・消毒液等の特需が発生し関連商品の売上が急増。ドラッグストア全体でも巣ごもり需要で食品売上が伸びた結果、業界全体が増収となりました​。その反動で2021年は伸びが鈍化しましたが​、2022年以降は再び成長軌道に戻っています。ただ特需に頼らず平常時の商品ポートフォリオで一定の利益率を維持することが今後の共通課題とされます​。業界各社は、食品と医薬品・日用品のバランスをとりつつ効率的な経営を追求するフェーズに入っているのです。

まとめると、ドラッグストアの収益モデルは**「安さと便利さ」で集客し「健康と美容」で収益化する構造に加え、PB商品による付加価値創出や調剤による安定収入**といった要素を組み合わせていると言えます。そしてこのモデルを最大限に機能させるには、スケールメリットの追求(店舗網拡大)と人材・品揃え戦略の最適化が不可欠であり、業界再編や業態革新はまさに収益モデル強化の手段とも位置付けられています。

大手ドラッグストア各社の最新動向

ドラッグストア業界を牽引する主要企業の動向を見てみましょう。現在、売上高で頭一つ抜けているのはウエルシアHDとツルハHDの2社で、これにコスモス薬品やマツキヨココカラ&カンパニー、サンドラッグ、スギHDなどが続きます​jms-support.jp。各社ごとに強みや戦略が異なり、業界内でのポジションも変化しています。以下に主な企業の概況を整理します。

ツルハホールディングス (3391)

ツルハHDは札幌市に本社を置き、北海道発祥のドラッグストア最大手グループです。全国に幅広く店舗網を展開し、2019年度には業界売上高トップに立ちました​the-owner.jp。その後もM&Aを通じて勢力を拡大しており、東北のくすりの福太郎、関東のドラッグストア併設調剤薬局(B&Dなど)、九州のドラッグイレブン(2019年にJR九州から買収)など、多数の地域チェーンを傘下に収めています。直近では2023年12月に子会社B&Dをツルハ本体へ吸収合併しグループ統合を進めると発表しました​nihon-ma.co.jp

ツルハHDの強みは、長年のM&Aで培ったドミナント戦略と幅広いエリアカバーです。地盤の北海道から本州、さらには九州まで店舗網が広がり、総店舗数は約2,200店規模に及ぶとみられます(2023年時点)。また調剤併設型店舗にも注力しており、グループで約4,000名の薬剤師を擁するなど体制を整えています​nihon-ma.co.jp。調剤・OTC・日用品を組み合わせた総合店として、地域の「かかりつけドラッグストア」機能を果たす戦略です。

最新動向として特筆されるのが、ウエルシアHDとの経営統合計画です。親密な資本関係にあるイオングループの主導で、2025年末を目途にウエルシアHDと統合する方針が示されました​nihon-ma.co.jp。実現すれば両社合わせて売上高2兆円規模・店舗数約3,400店超(単純合算)となり、日本最大のみならず世界的にも有数のドラッグストアグループが誕生します。ツルハにとっては同業他社との競争力を一層高め、商品開発や物流でもスケールメリットを追求できる転機となるでしょう。

ウエルシアホールディングス (3141)

ウエルシアHDはイオングループ傘下で、首都圏を中心に全国展開する業界2位(※2022-2023年は売上高業界1位)​jms-support.jpのドラッグストアチェーンです。もともと関東の「ウエルシア薬局」を核に、イオンが各地のドラッグストアを統合する形で成長してきました。例えばHACドラッグ(関東)、タキヤ・シメノ(中部・近畿)、金光薬品(中国地方)などを相次いで買収・子会社化し、版図を拡大しています​jms-support.jpjms-support.jp2022年には関西地盤の老舗ドラッグストアコクミンにも資本参加し子会社化を果たしました​jms-support.jp

ウエルシアの最大の特徴は、創業者の理念を受け継いだ「ウエルシアモデル」と呼ばれる独自戦略です。これは深夜営業(24時間営業店舗の展開)、調剤併設の推進、そして介護サービスへの対応という3本柱で店舗展開を行うモデルです​nihon-ma.co.jp。同社は業界でも突出して調剤に力を入れており、前述のように多数の調剤併設店と薬剤師を抱えています。また調剤報酬による収益だけでなく、介護相談や在宅医療支援など高齢者向けサービスも提供し、地域包括ケアに貢献する店舗づくりをしています。

近年の動向としては、東電パートナーズ(東京電力系の介護事業会社)買収など異業種との提携も目立ちます​nihon-ma.co.jp。これはドラッグストアの枠を超えて介護領域に踏み出す動きであり、超高齢社会をにらんだ事業多角化といえます。また、前述の通りツルハHDとの経営統合が控えており​nihon-ma.co.jp、統合後はイオンの流通力もフル活用したさらなる出店・サービス拡大が期待されます。ウエルシアHD単体でも2022年度に売上高約1兆259億円で業界トップjms-support.jpに立っており、統合後は名実ともに“ドラッグストア界のメガ”として市場をリードするでしょう。

スギホールディングス (7649)

**スギHD(スギ薬局グループ)**は愛知県発祥で、中部・関東・関西に強みを持つ大手チェーンです。店舗数は1,700店以上を展開し、約4,000名の薬剤師と500名超の管理栄養士を擁するなど人材面の充実が特色です​nihon-ma.co.jp。創業者が薬剤師出身ということもあり、調剤併設型ドラッグストアを早くから推進してきました。調剤・OTC・日用品のほか、管理栄養士による栄養相談サービスなどヘルスケア全般で地域貢献する姿勢を打ち出しています。

2019年にはココカラファインとの経営統合を検討すると表明し業界を驚かせました​(結果的にはココカラがマツキヨを選択)。このように業界再編のキーマンにもなり得る存在でしたが、その後は独自路線を維持しています。直近の売上高は**約6,254億円(業界6位)**で堅調に推移しています。M&Aこそ大掛かりなものはありませんが、地盤の愛知・東京などでドミナント出店を続け、少子高齢化で伸び悩む市場の中でも増収増益を確保しています。

スギの強みはヘルスケア志向の高さ接客力にあります。会員制の「スギポイント」や処方せんネット受付アプリなどCRM戦略にも注力し、固定客化を図っています。またドラッグストアと調剤薬局の融合を象徴する企業でもあり、「ドラッグストア=街の健康ステーション」というビジョンを体現しています。今後も医療・介護との連携分野で存在感を発揮しつつ、他社との資本提携など動き次第では再編の主役となる可能性も残されています。

コスモス薬品 (3349)

コスモス薬品は福岡県に本社を置き、九州・西日本から全国展開を進めるドラッグストア大手です。売上高7,554億円(業界3位)と上位に位置しながら、その成長パターンは他社と一線を画します​jms-support.jp。最大の特徴は圧倒的なローコスト経営とEDLP(毎日安値)戦略で、ディスカウント志向が非常に強いことです。生鮮食品こそ扱いませんが、食料品・菓子・飲料から日用品まで生活必需品を幅広く揃え、しかも特売に頼らず常に低価格で提供する方針を貫いています。

コスモス薬品はM&Aにほとんど頼らず、純粋な新規出店で拡大してきました。地盤の九州では圧倒的な店舗密度を築き、まさに「地域完全制圧」とも称されます​diamond-rm.net。その後、中国・関西・中部・関東へと“インクが染み出すように”エリアを広げており​ullet.com、直近では東日本にも出店攻勢をかけています。店舗は郊外型の大箱が中心で、駐車場を備え車社会に対応。営業時間も長めで、食品スーパー代わりに利用する顧客も多いのが特徴です。

人件費や物流コストの削減にも徹底的に取り組み、業界トップクラスの低コスト体質を実現しています。その結果、営業利益率でも高水準を維持してきました(近年は競争激化でやや低下傾向)。他方で調剤薬局業務はほとんど手掛けていない点もユニークです。あえて調剤をせずに済むよう調剤併設型の出店を避け、薬剤師を大量に抱えなくてもいいビジネスモデルを構築しています​en-hyouban.com。この割り切りによりコスト面の優位性を保っているわけです。

最新動向では、引き続き東日本への出店拡大が注目されています。関東地方でも郊外を中心に店舗網を拡大し始めており、将来的には全国チェーン化も視野に入れているようです。強みである安さと品揃えに磨きをかけつつ、都市部でどうシェアを伸ばすかが今後の焦点でしょう。他社にない独自モデルゆえに再編の渦中にはいませんが、業界内で存在感を放つ挑戦者的ポジションを保っています。

マツキヨココカラ&カンパニー (3088)

マツキヨココカラ&カンパニー(MCC)は、2021年に経営統合したマツモトキヨシHDとココカラファインの共同持株会社です。両社の統合により売上高7,229億円・店舗数約2,900店(2022年度)という巨大グループが誕生しました​jms-support.jp。統合効果で業界トップクラスの規模となり、ウエルシアHDやツルハHDに匹敵する存在です。

グループ内には、関東を中心に展開するマツモトキヨシ(ドラッグストア業界の老舗で都市型店舗が多い)と、関西や中部に強いココカラファイン(旧セガミ・スズラン・セイジョー等を統合したチェーン)という二つの強力なブランドが存在します。統合後はPB商品開発の共同化、プラットフォーム統合によるコスト削減、人材交流などが進められています。また**「美と健康の分野でアジアNo.1」を目標に掲げ、国内市場の成熟を見据えて海外展開にも意欲を見せています​the-owner.jp。実際、東南アジアでの店舗展開(マツキヨブランドでの出店)や、国内外EC強化、さらに近年ではコスメ専門メディア「LIPS」の買収**​nihon-ma.co.jpなど新たな試みにも取り組んでいます。

マツキヨはもともとコスメティクスに強みがあり、都心部の若年女性を中心に高い支持を得てきました。一方ココカラファインは調剤薬局併設率が高く、医療志向が強い企業でした。統合により**「都市型美容特化×調剤特化」**のハイブリッドな強みを発揮できる体制となっています。2023年以降、グループ内の組織再編も進み(調剤子会社の再編や店舗ブランドの整理など)、真の融合へ向けた移行期にあります。

最新では2025年3月に首都圏の調剤薬局チェーンを買収するなど​nihon-ma.co.jp、引き続きM&Aにも意欲的です。業界再編の潮流の中で誕生したMCCですが、ウエルシア・ツルハ連合という新たな競合に対し、自社もさらなる拡大策を模索する可能性があります。**「国内ドラッグストア事業では勝負あり」**との認識も示しており​the-owner.jp、今後はグループの強みを活かして海外や新事業領域への進出を図ると見られます。

サンドラッグ (9989) ほか主要企業

サンドラッグは東京都に本社を構える大手チェーンで、**売上高6,487億円(業界5位)**を誇ります​jms-support.jp。ディスカウントストアの流れを汲む経営で「おもてなしより安さ」を掲げ、郊外から都市部まで幅広く店舗展開しています。近年は調剤薬局の子会社化や酒類販売事業の統合(2025年に子会社の酒販事業を吸収合併)など​nihon-ma.co.jp、グループ経営の効率化を進めています。M&Aにも比較的積極的で、東北の「薬王堂」に資本参加した経緯もあります。堅実な財務体質と安定成長が評価されており、再編期においても独自路線を維持するでしょう。

クリエイトSDは神奈川県地盤で関東に強いチェーン、富士薬品ドラッグストアグループ(セイムス等)は埼玉発の卸兼業企業、クスリのアオキHDは北陸発祥で食品強化型店舗を展開する成長株です。アオキHDは2020年代に入り年10%超の増収を続けており、2024年5月期には売上高4,368億円に達しています​kusuri-aoki.co.jp。このように上位以外にも特色ある企業が多数存在しますが、いずれも大手数社による市場支配が強まる中で独自性を打ち出し、生き残りを図っている状況です。

まとめると、主要各社はそれぞれ**「調剤重視」「食品重視」「美容重視」「低価格重視」など戦略に違いこそあれど、最終的には総合力での競争**に挑んでいます。そして業界地図の塗り替えが目前に迫る中、各社とも自社の強みを軸にした経営戦略で次のステージを目指しているのです。

今後の業界見通し:成長分野・脅威・EC競争・人口動態

最後に、ドラッグストア業界の今後の展望について考察します。市場成熟がささやかれる中でも成長の余地はまだあり、同時に乗り越えるべき課題も存在します。

成長が見込まれる分野・戦略

ドラッグストア各社が特に成長機会と捉えているのが調剤薬局事業の拡大ヘルスケアサービス分野です。高齢化に伴い処方薬の需要は底堅く、政府も医療費抑制のためセルフメディケーション(市販薬活用による自己治療)を推奨しており​jms-support.jp、ドラッグストアはその拠点として期待されています​jms-support.jp。このため調剤併設率をさらに高めて地域の医療提供体制に組み込まれる戦略は、引き続き重視されるでしょう。調剤報酬制度の動向にもよりますが、在宅患者への薬剤提供やオンライン服薬指導など、新たなサービス展開も模索されています。

また、高齢者向けの介護・福祉関連サービスとのシナジー追求も見込まれます。前述のウエルシアHDが介護事業会社を買収した例​nihon-ma.co.jpに象徴されるように、店舗での介護相談やデイサービスとの連携などドラッグストアの地域包括ケア拠点化が進む可能性があります。これにより、単なる小売業から一歩踏み出し、地域住民の健康インフラとしての役割が強化されるでしょう。

さらに、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進も重要です。各社とも公式アプリやオンラインストアを展開し、処方せんの事前送信・決済、電子クーポン配布、EC販売などに取り組んでいます。蓄積した購買データを活用した個別マーケティング(レコメンドやクーポン最適化)や、店舗受取と宅配を組み合わせたO2O施策の強化など、ITを駆使したサービス向上が今後の差別化ポイントとなるでしょう。

そして国内市場が人口減で先細りすると見られる中、海外市場への進出も中長期的な成長戦略として挙げられます​dei.or.jp。マツキヨココカラ&カンパニーがアジア展開を目標に掲げるように​the-owner.jp、東南アジアを中心にドラッグストア事業の輸出を図る動きが出ています。日本製の高品質な医薬品・コスメへの需要は高く、現地資本との提携や合弁により成功すれば、新たな収益源となるでしょう。もっとも海外展開は競争環境や規制が異なるため容易ではありませんが、国内トップクラス企業にとっては魅力的なフロンティアです。

激化する競争と潜在的脅威

一方、ドラッグストア業界は引き続き熾烈な競争環境に晒されます。まず挙げられるのが業種間競争の激化です。ドラッグストアが食品や日用品を安売りすることで、スーパーマーケットやコンビニエンスストアと顧客争奪戦を繰り広げています​jms-support.jp。逆にコンビニやネット通販も規制緩和により一部の市販薬販売に参入し、境界線が曖昧になりつつあります​jms-support.jp。業態の垣根を超えた競争は今後も続き、小売業全体でのパイの奪い合いが避けられません。

特に存在感を増すのがEC(電子商取引)との競争です。近年はAmazonや楽天といったEC大手が医薬品登録販売者を介してOTC薬を販売したり、日用品の定期購買サービスを提供したりしています。ドラッグストアで買うようなシャンプー・洗剤・サプリメント等は、ボタン一つで自宅に届くECの脅威にさらされています。とはいえ現状では、日用品のオンライン購買比率はまだ低めであり、即時性や対面相談ニーズの高いドラッグストアには一定の優位があります。しかしデジタルネイティブ世代の台頭とともにオンライン志向が強まれば、無視できない脅威となるでしょう。

また、オーバーストア(過剰出店)問題も内在しています。各社が積極出店を続けた結果、地域によっては半径数百メートルの間に複数のドラッグストアが林立する状況も見られます。市場全体の成長率が鈍化する中でのこの過剰状態は、一店舗あたりの売上を押し下げ、既存店競合による共倒れを招きかねません​jms-support.jp。実際、2019年以降ドラッグストアの一店当たり年商は横ばい傾向にあり​jms-support.jp、新店効果だけでは成長を維持しづらくなっています。今後は統廃合も含めた出店戦略の見直しや、不採算店舗の閉鎖なども課題となるでしょう。

さらに忘れてはならないのが、規制や政策の影響です。ドラッグストア業界は医薬品に関わるビジネスであるため薬機法など政策変更の影響を大きく受ける規制産業でもあります​jms-support.jp。たとえば調剤報酬点数の改定や、ネット販売規制の緩和/強化、新たな医薬品カテゴリー創設などがあると、業界構造が揺らぐ可能性があります​jms-support.jp。企業側は行政動向にも敏感に対応し、時には業界団体(日本チェーンドラッグストア協会)を通じてロビー活動を行う必要があります。

人口動態と市場のゆくえ

日本の人口動態は少子高齢化と人口減少という大きなトレンドにあります。基本的に総人口減は小売市場の縮小要因であり、ドラッグストアとて例外ではありません​jms-support.jp。若年層の減少による消費の先細り、働き手不足による労務費上昇といった逆風は避けられないでしょう​jms-support.jp。特に地方ではマーケットそのものが縮小し、店舗網の維持が難しくなる地域も出てくると考えられます。

しかし一方で、高齢化の進展はドラッグストアにとってチャンスでもあります。シニア層は医薬品や健康食品の主要顧客であり、介護用品や衛生用品などのニーズも高くなります。また行政が掲げる「健康寿命延伸」にドラッグストアは重要な役割を期待されています​jms-support.jp。地域住民の健康相談や予防医療の担い手として、ドラッグストアが果たせる役割はむしろ増大するでしょう。具体的には、血圧測定や栄養指導イベントの開催、在宅療養患者へのフォローアップなどヘルスケアコミュニティハブとしての機能強化が考えられます。

人材面では、上述の薬剤師不足に加え、パート・アルバイト人員の確保難も深刻化し得ます。労働人口減はサービス業全般での人手不足を招いており、ドラッグストアも例外ではありません。これに対しては、より一層の業務効率化や自動化投資で乗り切る動きが加速するでしょう。セルフレジの導入拡大や、陳列棚の電子タグ管理、バックヤード物流のロボット化など、省力化による生産性向上が求められます。また、待遇改善や柔軟な働き方の導入によって人材を惹きつける努力も必要です。

総じて、人口減少という逆風下でもドラッグストア業界は一定の成長余地を保ちつつ、構造的転換期を迎えると予想されます。業界再編で生き残った巨大チェーン同士がしのぎを削りつつも、健康・医療ニーズの高まりに対応して社会インフラ化するーーそんな姿が今後描かれていくでしょう。上位企業の3グループ体制が現実味を帯びる中​the-owner.jp、消費者にとっては利便性がさらに高まり、一方で小規模店の淘汰は進む可能性があります。最終的には、ドラッグストアは「安い・近い・何でもある」存在から「健康と生活を支える地域拠点」へと進化を遂げ、縮小市場でも持続的な役割を果たしていくと考えられます。

まとめ: 日本のドラッグストア業界は、この数十年で劇的な成長と変貌を遂げてきました。再編の波を経て寡占化が進む一方、業態は食品や調剤を取り込み生活密着型に進化し、収益モデルも巧みに多角化しています。主要企業は各々の強みを武器にしながら、新たな提携や統合によってさらなる高みを目指しています。今後は、競争環境や人口構造の変化というチャレンジに直面しますが、国民の健康ニーズに応えるプライマリー・ストアとしての価値は一層高まるでしょう​dei.or.jp。成長分野を取り込みつつ課題を克服できるかが、業界の未来を左右すると言えます。ドラッグストア業界の動向からは、日本の流通業全体の変遷と、これからの消費社会の姿が浮かび上がってきます。

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